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[資料番号] 00124
[題  名] 人権擁護法案と労働分野における人権救済制度の在り方について(H13.12)
[区  分] その他

[内  容]



資料
法務省「人権擁護法案の大綱」と厚生労働省「労働分野における人権救済制度の在り方について(報告)」

【資料のワンポイント解説】


1.人権擁護法案は、法務省の外局として「人権委員会」を設置し、
(1)あらゆる人権侵害に対する相談に応じるとともに、任意の調査、助言・指導を行う。(一般救済手続)
(2)さらに、「人種、性別等に係る差別的取り扱い」、「虐待」、「(セクシュアル)ハラスメント」、「報道機関のつきまとい、待ち伏せ行為」、「差別助長行為」等に係る人権侵害に対しては、特別調査権、調停、仲裁、勧告・公表、訴訟援助といった強力な救済手続を導入する。(特別救済手続)
(3)事務局の地方機関としては、地方法務局を予定、というものだ。
2.この中で、労働分野における差別的取り扱い及び職場におけるハラスメント等については、厚生労働大臣が救済を行うとしている。

3.これを受けて、厚生労働省が「労働分野における人権救済制度検討会議」を設置して、まとめたのが「労働分野における人権救済制度の在り方について(報告)」であるが、結論において、「都道府県労働局に置かれている独立性のある紛争調整委員会を活用する」のが妥当とした。

4.しかし、連合等の労働者側委員は、余程、厚生労働省・都道府県労働局がお嫌いのようだ。本当の理由がどこにあるのかは、分からないが、これに先立つ「個別労働関係紛争解決促進法案」の審議会においても、都道府県労働局活用案に反対する一方で、執拗に、「労働委員会」活用を本命機関として主張した経緯があるほか、今回も、「(都道府県労働局の)紛争調整委員会で行うことでは他の分野における救済制度と同等の救済制度とはいえないので反対であるという意見が表明された。」いう。
しかし、これは労働分野の問題を、「都道府県労働局」ではなく、「地方法務局」が取り扱う方がより妥当だという意見に近いように思うのだが、、果たしてその方がよいのか?やはり、分かりずらいと思う。
意見は意見で結構だが、もっと国民に分かるように説明がほしいところだ。


資料目次
■人権擁護法案(仮称)の大綱(法務省)
■労働分野における人権救済制度の在り方について(厚生労働省検討会議報告)




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人権擁護法案(仮称)の大綱




第1 総則関係

1 法律の目的
  人権救済及び人権啓発の措置を講ずることにより,人権擁護の施策を総合的に推進し,もって,人権尊重社会の実現に寄与することを目的とすること。

2 国の責務
  国は,人権擁護の施策を総合的に推進する責務を有するものとすること。
3 人権侵害行為等の禁止
 (1)何人も,(2)のほか,不当な差別,虐待等他人の人権を侵害する行為をしてはならないものとすること。
 (2)社会生活の領域において,人種等を理由として不当な差別的取扱いをしてはならないものとすること。
    社会生活の領域:国・地方公共団体等の公務,商品・サービス・施設の提供,雇用,教育
    人種等:人種,民族,信条,性別,社会的身分,門地,障害,疾病,性的指向 
 (3)差別助長行為等((2)の差別的取扱いを助長する目的で不特定多数者の人種等の属性に関する情報を公然と摘示し,又は不特定多数者に対して(2)の差別的取扱いをする意思を公然と表示する行為)をしてはならないものとすること。



第2 組織関係
1 人権委員会(仮称)
 (1)設置
   国家行政組織法3条2項の規定に基づいて,人権委員会を法務省の外局として設置するものとすること。
 (2)所掌
   人権委員会は,人権救済,人権啓発,政府に対する助言を行うものとすること。
 (3)構成
   人権委員会は,委員長,委員4人(うち非常勤3)をもって組織し,委員長及び委員の任期は3年とすること。
 (4)任命
   委員長及び委員は,内閣総理大臣が,両議院の同意を得て,ジェンダー・バランスに配慮しつつ,任命するものとすること。
 (5)独立性
   委員長及び委員は,独立して職権を行使し,法定の事由がなければ罷免されないものとすること。
 (6)会議
   人権委員会は,会議を開き,多数決により議事を決するものとすること。
 (7)事務局
   人権委員会に事務局を置き,事務局の地方機関として所要の地に地方事務所を置くものとし,地方事務所にはその支所を置くことができるものとするほか,  人権委員会は地方事務所の事務を地方法務局長等に委任することができるものとすること。
 (8)国会報告
   人権委員会は,毎年,国会に対し,所掌事務に関する報告を行わなければならないものとすること。

2 人権擁護委員
(1)設置
  地域社会における人権擁護の推進を図るため,人権委員会に人権擁護委員を置き,人権擁護委員はその居住する市町村等において職務を行うものとすること。
(2)委嘱
  人権擁護委員は,市町村長が推薦したその住民のうちから人権委員会が委嘱するが,人権委員会は,他に特に適任と認める者があるときは,市町村長の意見を聴いて,その者にも人権擁護委員を委嘱できるものとすること。



第3 救済手続関係

1 一般救済手続
 (1)相談
   人権委員会は,人権侵害に関する相談に応ずるものとすること。
 (2)人権救済の申出
   人権侵害の被害者は,人権委員会に対し,人権救済の申出をすることができるものとし,申出があれば人権委員会は,関与することが適当でない事件を除き,遅滞なく必要な調査を行い,適当な措置を講じなければならないものとすること。
 (3)一般調査
   人権委員会は,人権救済を図るため,必要な調査を行うことができるものとすること。
 (4)一般救済
   人権委員会は,人権救済を図るため,次の措置等を講ずることができるものとすること。
   ア 被害者等に対する助言,関係行政機関等の紹介その他の援助
   イ 加害者等に対する説示,啓発その他の指導
   ウ 被害者等と加害者等との関係調整


2 特別救済手続
(1)救済措置
 人権委員会は,1(4)の措置のほか,次のア〜オの人権侵害(以下「特別人権侵害」という。)については(3)〜(5)の措置を,カの行為については(4),(6)  の措置を,それぞれ講ずることができるものとすること。
 ア 第1,3(2)の差別的取扱い
 イ 次の虐待
   (ア)公権力の行使に当たる公務員による虐待
   (イ)社会福祉施設,医療施設,学校等における虐待
   (ウ)児童虐待防止法2条に規定する児童虐待
   (エ)配偶者,同居の高齢者・障害者等に対する虐待
 ウ 人種等を理由とするハラスメント,地位利用を伴うセクシュアルハラスメント
 エ 報道機関による次の人権侵害(ただし,報道機関等による自主的な取組を尊重するものとする。)
   (ア)犯罪被害者等に対する報道によるプライバシー侵害
   (イ)取材を拒否している犯罪被害者等に対して反復継続して行われるつきまとい,待ち伏せその他の過剰な取材
      犯罪被害者等:犯罪被害者とその家族、被疑者・被告人の家族、少年の被疑者・被告人
 オ ア〜エに準ずる人権侵害で,被害者の置かれている状況等から,被害者が自らその排除・被害回復を図ることが困難であると認められる人権侵害
 カ 第1,3(3)の差別助長行為等


(2)特別調査
  人権委員会は,特別人権侵害((1)エ及びオを除く。)及び(1)カの行為については,過料の制裁を伴う次の調査をすることができるものとすること。
 ア 事件の関係者に出頭を求め,質問すること。
 イ 人権侵害等に関係のある文書等の所持人に対し,その提出を求めること。
 ウ 人権侵害等が行われ,又は行われている疑いがある場所に立ち入り,文書等を検査し,関係者に質問すること。

(3)調停,仲裁
 ア 人権委員会は,特別人権侵害について,当事者の申請により,調停及び仲裁をするものとし,調停については,職権で付することもできるものとすること。
 イ 調停及び仲裁に参与させるため,人権委員会に人権調整委員を置き,人権調整委員は,人権委員会が任命するものとすること。
 ウ 調停及び仲裁は,人権委員会の委員長,委員,人権調整委員のうちから,事件ごとに,人権委員会の委員長が指名する3人の委員で組織する調停委員会及び仲裁委員会により行うものとすること。


(4)勧告・公表
  人権委員会は,特別人権侵害及び(1)カの行為について,救済のため必要があるときは,その行為者に対し,その停止等を勧告することができるものとし,その行為者がこれに従わないときは,その旨及び勧告の内容を公表することができるものとすること。


(5)訴訟援助
 ア 人権委員会は,勧告をした特別人権侵害について,被害者から申出があるときは,関係者の利益等も考慮した上で,人権委員会が保有する関係資料を閲覧させ,その謄抄本を交付することができるものとすること。
 イ 人権委員会は,勧告をした特別人権侵害について,特に必要があるときは,当該事件に関する訴訟に参加することができるものとすること。


(6)差別助長行為の差止め等
 人権委員会は、(1)カの行為をした者が勧告に従わない場合において,必要があるときは,その行為者に対し,その停止等を請求する訴訟を提起することができるものとすること。


3 救済手続の特例
 雇用における人種等を理由とする差別的取扱い及び労働者に対して職場においてなされる人種等を理由とするハラスメント等については,厚生労働大臣(船員に関するものについては国土交通大臣。以下同じ。)も一般救済手続を行うものとし,特別救済手続のうち,2(2)の調査及び同(3),(4),(5)アの措置は、厚生労働大臣が行うものとすること。



第4 その他

 1 法案提出時期           3月上旬を目途
 2 人権委員会の立ち上げ時期   平成15年6月〜7月ころを目途






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労働分野における人権救済制度の在り方について(報告)

平成13年12月20日
労働分野における人権救済制度検討会議

 平成13年5月25日、人権擁護施策推進法に基づき法務省に設置された人権擁護推進審議会は、法務大臣に対し、「人権救済制度の在り方について」答申(以下「答 申」という。)を行った。
 答申において、同審議会は、我が国における人権侵害の実情や救済にかかわる制度 の状況を踏まえ、人権侵害一般について、政府から独立した人権委員会(仮称)を中 心とする新たな人権救済制度の創設を提言したが、その一方で既に被害者の救済にか かわる専門の機関が置かれている分野においては、当該機関との適正な役割分担を図 る必要があることを指摘した。
 労働分野の人権侵害については、従来から労働基準法や男女雇用機会均等法の施行 等を通じて厚生労働省が中心的な役割を果たしてきたところであるが、答申に基づき新たな制度を設ける中で、厚生労働省がいかなる役割を果たすべきか等について検討を行うことが必要である。
 本検討会議は、厚生労働大臣の参集を受け、本年10月から5回にわたり議論を重ねてきたが、今般、下記のとおり、これまでの議論の集約を行った。


1 労働分野の人権侵害について、答申を踏まえ、他の分野における救済制度と同等の救済制度の整備を図ることが必要である。


2 答申においては、雇用の領域を含む社会生活における一定の差別的取扱い、セクシュアルハラスメント等の人権侵害について、より実効性の高い「積極的救済」を図る必要があるとして、調停・仲裁、勧告・公表、訴訟援助等の救済手法の整備や実効的な調査権限の導入が提言されている。
  一方、労働分野においては、既に労働基準法、男女雇用機会均等法等に基づいて、人権救済にかかわる制度が整備されてきたところであり、また、労働分野における人権救済制度の適切な運用に当たっては、労働法制、労使慣行、労務管理実務等に関する知識を有する職員が必要不可欠である。
  これらを総合的に考慮すると、労働分野における「積極的救済」については、訴訟参加等人権委員会が行うことが相当であるものを除き、厚生労働省がこれを担当することとし、既存の機関や知識・経験の蓄積の活用を図ることが適当である。


3 答申においては、新たな人権救済制度を担う人権救済機関は政府からの独立性を有する委員会組織である必要がある旨指摘している。
  このため、労働分野の人権侵害についても、救済制度の公平性・公正性の確保を図ることは重要であり、個々の事件の調停・仲裁は、都道府県労働局に置かれている独立性のある紛争調整委員会を活用し、公平性・公正性が保たれるような運営を図ることが必要である。


4 人権救済制度の整備に当たっては、利用者に対するワンストップ・サービスの提供という観点が重要である。
  相談及び簡易な救済については、事案に応じて、専ら任意的な手法により簡易・迅速かつ柔軟な救済を図ることを目的とするものであり、排他的に担当を定めるまでの必要はないことから、労働分野における人権侵害については、相談者等が厚生労働省及び人権委員会のどちらの窓口に行ってもこれらについてワンストップのサービスを受けられることを原則としつつ、事案に応じて、人権委員会が厚生労働省の機関に紹介・引継ぎを行うことができるとするなどの適切な役割分担を図ることが適当である。
  

5 以上を踏まえ、労働分野における具体的な救済制度の内容及びその実施機関については、別紙のとおりとすることが適当である。
  なお、調停・仲裁の申請、開始の方法等救済の手続については、人権委員会が行うものと同一にすべきである。
  また、救済手続のうち訴訟参加については人権委員会が行うこととなるが、この場合には、厚生労働大臣が人権委員会に対し必要な資料等を送付するなど行政の責任において十分な引継ぎを行い、当該手続の利用者に対して余計な負担をかけないようにすることが必要である。


6 積極的救済の対象として禁止される差別の範囲を明確化することは、差別的取扱い等の未然防止のための啓発に有効なものである。このため、これら範囲の明確化に努めることが必要である。
  なお、積極的救済の対象としての差別的取扱いとは、合理性のない不当な差別的取扱いをいうものであり、男女雇用機会均等法に基づくポジティブ・アクションや障害者の雇用を促進する障害者雇用率制度に基づく措置がこれに含まれないことは当然である。


7 都道府県労働局において人権救済制度にかかわる職員の研修を図るとともに、紛争調整委員会の運営について地方労働審議会に報告するなど、制度の適正な運営を図ることが必要である。


8 人権侵害の未然防止という観点から、労働分野における人権啓発を積極的に実施することが必要である。


9 労働分野において他の分野における人権救済制度と同等の救済制度の整備を図ることに伴い、男女雇用機会均等法に基づく調停等これと内容が重複することとなる制度については、その範囲において必要な法律の規定の整備を行うことが適当である。


10 なお、労働者側委員から、調停、仲裁などの救済手続は独立性の高い国家行政組織法第3条の委員会で行うべきであり、紛争調整委員会で行うことでは他の分野における救済制度と同等の救済制度とはいえないので反対であるという意見が表明された。
  また、労働者側委員から、差別的取扱いの差別理由である「人種等」の中に年齢による差別が含まれていないことは問題であることという意見が表明され、これに対し、使用者側委員から、救済制度の対象範囲は答申のとおりとすべきであり、年齢による差別を加える必要はないという意見が表明された。



(参考2)
     労働分野における人権救済制度検討会議参集者名簿

                      (五十音順、敬称略)

    渥美 雅子  弁護士

    海老原 正  全国商工会連合会指導部長

    奥山 明良  成城大学法学部教授

    片岡 千鶴子 サービス連合男女平等局長

    小山 正樹  JAM副書記長

    坪田 秀治  日本商工会議所産業政策部長

    中嶋 士元也 上智大学法学部教授

    根本 良作  日本労働組合総連合会組織調整局長

    長谷川 裕子 日本労働組合総連合会労働法制局長

    堀野 紀   弁護士

    矢野 弘典  日本経営者団体連盟常務理事

    山極 清子  株式会社資生堂人事本部人事部課長
           (ジェンダーフリー推進事務局)

    山崎 克也  全国中小企業団体中央会事務局長

    吉宮 聰悟  日本労働組合総連合会総合男女平等局長

(座長)渡辺 章   筑波大学社会科学系教授