当面のパート労働対策はどうなるか?
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労働省「パートタイム労働に関する調査研究会」の概要

労働省は標記研究会(座長 高梨昌信州大学名誉教授)がとりまとめた報告書を8月1日発表した。
いまや、パートタイム労働者も1,000万人。就労条件の整備が急務であるが、この報告書から当面の労働省のパート労働対策の基本方向を読みとることができる。
「疑似パート」(パートタイマーと称されるフルタイマー)やパートの年収調整問題の背後にある税制等の改善に対する積極的な姿勢が読みとれる反面、ヨーロッパを中心としたパート&正社員の『均等原則』導入に対する及び腰が目に付く、などが特徴。一読をお奨めする。


<目次>
報告書の骨子はつぎのとおり。

○政策の基本的方向
○労働条件明示などの手続き面の徹底
○多様性に応じた雇用管理
○正規従業員との均衡
○雇い止めの問題
○就業調整問題
○選択の利く就業形態










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政策の基本的方向

パートタイム労働者は、今や1,000万人を超え、量的には雇用者全体の約2割占めている。
質的にも勤続期間の長期化、専門的・技術的職種の増加が見られ、我が国の経済活動に欠かせな
い重要な存在となっている。パート労働に係る構造的特質として次の点が指摘できる。

第一に、パート労働問題の背景には、正規従業員を対象とする長期雇用を前提とした内部労働市
場と、地域労働市場の影響を受けるパートタイム労働者を対象とした外部労働市場の違いが構造
的に存在している。
しかし近年、内部労働市場も柔軟な働き方が進んでおり、従来の内部労働市場上−−外部労働市
場の区分が薄れ、パートタイム労働者にも新たなキャリアを開くチャンスが生じうる。したがっ
て政策的には、多元的なキャリア形成が図られるよう雇用管理改善のあり方を誘導するとともに、
併せて自発的に職業能力開発に取り組める環境を整備する一方、職業能力の適正な評価を推進す
ることが求められる。

第二に、パートタイム労働者の特質として、家庭との両立を図る主婦層が多く、就業動機・意識
が多様であること、非正規従業員の中では常用労働的色彩が強いこと、またその処遇や労働条件
決定には地域労働市場の影響が大きいことが挙げられる。

第三に労使関係について見ると、パートタイム労働者の組織率は極めて低く、また組織化されて
いる場合でもパートタイム労働者の待遇、中でも均等待遇の問題や雇用保障といった点について
は現状においてほとんど取り上げられていない。これは労働組合が正規従業員中心であることが
大きな要因であるが、国際的にも日本と同様、組織化が進展していないという実情が見られ、政
策的対応の必要性を物語っている。

パートタイム労働者の処遇および労働条件について雇用管理改善を進めるためには、次のような
観点を施策の方向として考える必要がある。

第一に、労働条件の明示、明確化は雇用管理の前提となるものであり、労働条件に係る書面の交
付や就業規則の作成などの手続き面についてその徹底を図ることがまず重要である。

第ニに、処遇や労働条件の確保に係る具体的な雇用管理改善に係る問題として、従来から賃金な
どを中心とする労働条件に係る問題と、雇用の安定性に係る問題が指摘されている。労働条件に
係る問題の解決のための特に重要なポイントとして次の点について共通の認識が得られた。

(1)パートタイム労働者の処遇、労働条件の改善を図るためには、就業実態に応じて、キャリ
ア形成・教育訓練を行うことがますます重要となっていること。
(2)パートタイム労働者の多様化が進むなかで、処遇および労働条件の確保を図るためには、
就業実態に応じてタイプごとに問題点と、合理的な雇用管理のあり方を考えることが必要であり、
タイプによっては正社員への転換も積極的に考慮していく必要があること。
(3)均等原則の導入の可否の問題については、我が国の職種・賃金システムに応じて実効制を
どう図るか、労働市場への波及効果をどう考えるかという現実的な視点に立ってすすめることが
必要であること。
(4)雇い止めの問題については、一年以上勤続した場合、30日前予告の徹底が重要であるこ
と。

第三に、パートタイム労働者のあり方に影響を与える関連した制度として、税制・社会保険・配
偶者手当などの問題がある。これらの制度については、パートタイム労働者の就業調整を引き起
こしている面があり、労働市場における人々の選択に中立的なシステムの構築が求められている。
以下、パートタイム労働者の処遇および労働条件について、雇用管理改善を進めるための重要な
個別の問題点について述べる。




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労働条件明示など手続き面の徹底

パートタイム労働法の制定および同法に基づく指針の施行などにより、労働条件の明示を文書で
行うこと、就業規則の作成についてパートタイム労働者の過半数代表の意見を聴くことなど、手
続き面での改善は進みつつあるものの、労働条件についての文書による明示の水準は、なお24
.6%と全体の4分の1程度に過ぎない。
パートタイム労働は、家事などの都合や体力の状況などに由来して選択されることが多く、その
時間帯、時間幅は区々であり、労働時間などの面で個別的雇用管理がなされ、また拘束性の弱い
雇用管理が期待されていることから労働時間、残業の有無や就業の場所などの事項を中心に、個
別に労働条件の明示・徹底を図る必要性は高い。




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多様性に応じた雇用管理

パートタイム労働が短期のものである場合には、多くの場合、内部労働市場における正規従業員
と異なり、その賃金などは基本的に地域労働市場で決められている。政策的にも、地域労働市場
において適切な求人・求職情報が得られ、教育訓練の受講が容易となるようなパートバンクを始
めとした労働力需給調整機能の充実・強化、能力開発面での援助、必要な情報の提供などが重点
となる。
またパートタイム労働者の処遇および労働条件の改善を進めるためには、地域のセーフティーネ
ットの役割を図ることが必要であり、労働基準法、労働安全衛生法等の関連法規の周知徹底や最
低賃金制度の適切な運用を図っていくことが必要である。
これに対し、バートタイム労働者の勤続期間が長くなる場合には、内部・外部労働市場の区別は
希薄となり、パートタイム労働者の勤続期間、職種、労働時間の長さ等の就業実態に応じ、相応
したキャリア形成・教育訓練の実施、内部労働市場に適用される雇用管理手法の適用、正規従業
員との均衡など、合理的な雇用管理のあり方を進めることが望ましい。




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正規従業員との均衡

勤続時間が長くなるにつれ、特に労働時間の長いパートタイム労働者を中心に、処遇や労働条件
について、正規従業員との均衡を考慮して雇用管理のあり方を考えることが求められる。
この点については、特にILO条約や西欧諸国に見られる均等原則との関係が問題になるが、均
等の考え方そのものは理念として正しい面を持っているといえよう。しかしながら、こうした原
則の法的導入については、次のような難しい問題がある。

第一に、技術的問題として、仮にパートタイム労働者と正規従業員との間の合理的な理由のない
格差を是正する場合、どのような基準で比較し、是正を図っていくかという問題である。
わが国では職種概念が不明確であり、企業によって職種の概念や実態がさまざまであるうえ、勤
続年数、能力、資格、学歴などの諸要素を、賃金決定に関しどう判断するか。また時間給労働者
と、複雑な手当のついた給与付与の労働者をどう比較するか等の点を整理する必要がある。これ
らの点について比較する基準が労使につくられていないという基本的な問題がある。

第二に、パートタイム労働者は労働市場の中で独立して存在するわけではなく、労働市場全体へ
の影響を度外視することはできない。仮に均等原則を導入した場合、当然、正規従業員の労働条
件、雇用のあり方に影響を与えるほか、均等原則を導入している国の一部に見られるように、仕
事による凄み分けにより、パートタイム労働がより単純補助的な業務に固定されるおそれがある
ことにも注意する必要がある。
所定労働時間が正規従業員と同じであって、パートタイム労働者として雇用管理がなされている
者の処遇については、通常のパートタイム労働者に比べ、正規従業員との均衡を考える必要性が
とりわけ高いといえる。とくに拘束度(残業義務・程度、配置転換義務など)が正規従業員と同
じ者について妥当しよう。こうしたケースに関し、正規従業員との賃金格差についての法的な扱
いについては、学説上、救済説から救済否定説まで諸説あり、裁判判例においても、確立した考
え方は示されていない。




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雇い止めの問題

パートタイム労働者の契約期間、勤続年数が長期化するなかで、契約更新が相当回数に及んでい
ても景気後退時には突然、雇い止めないし解雇の対象とされることも少なくない。法律的には、
裁判例において、
(1)突然なされる雇い止めの効力
(2)整理解雇の効力
として争われている。(1)については、更新回数、仕事の性格、更新手続き、当事者の意思、
継続雇用の期待が生じる状況か、などを考慮し、実質的に期間の定めのない契約と認められる場
合には、解雇に関する法理を類推適用すべきものとしている。(2)については、臨時社員につ
いて、パートタイム労働者を正規従業員より先に雇用調整の対象とすることもやむを得ないとし
たものがあるが、さらに整理解雇基準の適用について解明されるべき点がある。なお、パートタ
イム労働法に基づく指針においては、パートタイム労働者が突然の雇い止めにより不利益を被ら
ないよう、事業主に30日前予告を規定しており、こうした趣旨の徹底を図っていく必要がある。




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就業調整問題

バートタイム労働者の31.6%が、収入が一定額を超えないように就業調整を行っている。あ
る意味では経済合理的な行動ともいえるが、働く意欲と能力のある労働者が、その職業能力を十
分実現できないばかりでなく、事業主にとっても、交代制勤務や年末の繁忙期に人手確保に苦慮
することになり、パートタイム労働者全体について、いわばあてにならない労働者という印象を
与えている。近年、こうした就業調整を行う者が増えており、一般労働者との賃金格差が生じる
重要な一因をなしていると考えられる。
就業調整は、所得税非課税控除限度額(103万円)およびそれと連動した配偶者手当制度、さ
らには社会保険制度の被保険者となる基準額(130万円)において行われている。
非課税限度額による所得の逆転現象については、すでに昭和64年に導入された配偶者特別控除
の導入により解消されているものの、非課税限度額103万円を多くの企業で配偶者手当支給制
限の基準とする場合が多いため、現実には、なお103万円を境として逆転現象が生じている場
合がある。

これらの制度は、妻が家庭に止まり、夫に扶養されるのが通常であった社会状況を背景として生
まれた制度である。女性の就業が進んでいる今日においては、見直しが求められる。就業調整が
行われるポイントとなっている額の引き上げは、結局は新しい額での就業調整が行われるだけで、
問題の根本的解決にはならない。このことについては、平成8年12月の経済審議会建議で、労
働供給制限的な効果を有する税制・社会保障制度については個々の制度の撤廃も含めて抜本的に
見直す必要性が指摘されていることを踏まえ、具体的な検討に着手することが望まれる。




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選択の利く就業形態

パートタイム労働は、労働者にとって家庭や健康面などでの都合を抱える場合、これらの都合に
あわせた働き方として選択されることが多い。パートタイム労働を、選択の利く就業形態とする
ためには、さまざまな職務に短時間労働形態が広がっていくことが望ましい。しかし現実には、
一部に専門職や管理職が見られるものの、全体として単純・補助業務や、臨時的労働に偏ってい
ることは否めない。このため高度な職業能力を持つ者が時間的制約を抱えながら能力を活かした
働き方を求めても、それにふさわしい短時間勤務の職務に就くことは極めて困難な状況にある。

特に、いったん家庭に入った後、再び家庭の都合と両立できる働き方として短時間勤務を求める
女性や体力など健康面の都合で短時間勤務を希望する高齢者について妥当する。
今後、労働者のライフサイクルに応じた柔軟な働き方として、育児・介護に伴う短時間勤務制度
の普及のほか、パートタイム労働とフルタイム労働の相互転換制度の促進などが課題となってく
るものと考えられる。こうした働き方の前提としては、高度な職務内容の短時間勤務や内部労働
市場における正社員と同様の雇用管理を受ける短時間勤務を創出することが必要である。

このように考えると、パートタイム労働市場については、地域的制約を抱えつつも、将来的には
選択の利く労働市場として育成していくことが、労使を含め経済的社会的に重要である。
こうした観点から、パートタイム労働の職務が定型的なものに限られるとか、労働条件が相対的
に低いものに偏るなどのことがないよう、パートタイム労働の就業形態が正規従業員と比べ偏り
のないものとしていくことが望ましい。
そのためには、パートタイム労働の雇用管理改善を進めるとともに、就業形態多様化の動きの中
で、内部労働市場にも良好な労働条件の短時間勤務形態を創出する可能性を探っていく必要があ
る。












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